浮嶽神社 菅秀広さん

守りたいのは、地域が“ふるさと”であり続けるためのよりどころ

「こんなに美しい神社なのに、インターネットに出ている情報がとても少ないのはなぜだろう」。初めて訪れたとき、正直そんな思いになりました。糸島市と佐賀県唐津市の県境にあたる浮嶽(標高約805メートル)の中腹に位置する浮嶽神社中宮。棚田を抜ける細い道を上り、小さな駐車場に着くと、風情たっぷりの大銀杏や椿、梅など花木が迎えてくれます。

 

 

代々浮嶽神社の神主を務めてきた菅家に生まれた菅秀広さんは現在、宮司に次ぐ禰宜(ねぎ)という役職を担っています。「父が宮司で、その手伝いを会社勤めしながらやらせてもらっています。うちの神社、きれいですか。ありがとうございます。ずっと暮らしているからよく分からなくなっちゃって」。その言葉から、暮らしに溶け込んだ神社の様子が感じられましたが、実は、とても貴重な仏像があることで知られています。国の重要文化財に指定された平安時代前期の木彫仏像3体。全国から視察がありますが、「大々的に宣伝はしていません。この神社は、地域の方々と一緒に守っているものなので、静かな集落がお迎えできる範囲で参拝に来ていただけたらいいかな、と思っています」とのこと。それがインターネットでも情報が少なかった理由なのかと、納得しました。

 

 

そんな静かな神社が大勢の人でにぎわう神事が年2回あるといいます。10月の神幸祭と大みそかの年越し行事。神幸祭では40歳になる厄年の人がみこしを担ぎ、大名行列が集落を練り歩きます。そして、年越し行事では、大晦日の夜から境内にかがり火をたいて、1月3日まで火を絶やさないようにするのが大切な務め。元日から3日までの期間にも厄ばらいがあり、早朝から厄年を迎える人たちがかがり火を囲むように集まってきて、「久しぶり!」「今は何しよるん?」とワイワイ楽しげな“同窓会“が始まるそうです。

 

 

菅さん自身も福吉出身で、厄年のときには中学校の同級生グループで声を掛け合い、懐かしい再会を楽しんだそうです。「小中学校時代の恩師も呼んで、厄ばらいの後には食事に行きました。そうした光景って、ふるさとの象徴ですよね。時代はどんどん変わっていますが、この神社を守り継ぐことは、この地域がみんなの“ふるさと“であり続けるためのよりどころを守ることかな、と思っています」と菅さん。

 

 

境内は、地域の人の手で隅々まできれいに整えられていました。畜産が盛んな二丈地区ならではと感じたのが、乳牛と肉牛の絵が奉納されている「牛神様」。毎年、地域の畜産農家が集まり、1年間の無事を祈願しているそうです。

 浮嶽という山そのものをご神体としている浮嶽神社は、山頂に上宮(じょうぐう)のおやしろと鳥居がありますが、その上宮も毎月、地域の人たちが交代で清掃しています。ロープを手繰るような急傾斜もある山道を1時間ほどかけて登るというハードな清掃活動。それを聞いて、菅さんが口にした「地域の方々と一緒に守っている」という言葉の重みを実感しました。

 

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国の重要文化財の仏像3体(木造仏座像、木造地蔵菩薩立像、木造如来立像)は、事前に電話予約していただくと拝観が可能です。

 

浮嶽神社

〒819-1641  糸島市二丈吉井954

092-326-5641

福吉のおすすめ

体力のある方は、浮嶽山頂にある浮嶽神社上宮を参拝されてください。遠くに青い海を望む風景は最高です。

【取材日】2022年3月3日