山頂に鎮座する坊主岩から360度広がる空と海と大地の大パノラマ
糸島市と唐津市の境に位置する背振山系最西端の十坊(とんぼ)山。標高535メートルの低山は、山頂まで1時間半から2時間程度で登れることから、子ども連れの登山者にも人気のある山です。昔は糸島の小中学校の行事で近隣の山に登るのが定番となっていて、私も小学5年生の時に十坊山に登った記憶があります。
「近頃では、トイレがないという理由や安全面を考慮して、学校行事の登山がなくなっているんですよ」と残念そうに話すのは、生まれも育ちも福吉の大庭初男さん。十坊山は小学3年生の時に初めて登ったそうです。
十坊山の登山口には地元の小学生が描いた手作りの観光案内マップがある
大庭さんが登山を始めたきっかけは健康のためでしたが、登り切った時の達成感と爽快感、山の自然の美しさにすっかり魅了され、いつしか背振山系を山から山へ縦走するほどになったと言います。
「山道を歩いていると、木立から光が差して、本当にきれいで癒やされます。十坊山は地域の人たちの尽力で、登山道がしっかり整備されているので登りやすいですよ。雑木林も杉木立も、どちらもいい景色です。山に登り始めて体力に自信がついた頃に、ようやく足元の小さな草花を見る余裕が出てきたんですが、草木の若芽やコケの緑が、もうとにかく美しくて」と大庭さんが山で目に留まった植物の写真を次から次に見せてくれます。
季節の花々 オドリコソウ(左)スミレ(右)写真提供:大庭初男さん
シダの芽(左) カナクギノキの若芽(右) 写真提供:大庭初男さん
地面にさす光(左)コケの芽(右)写真提供:大庭初男さん
月に2、3回は山に行くという大庭さん。その時期にしか見られない草花の群生に会いに行くこともあるそうです。「登頂を目的としなくても、気軽にトレッキング感覚で山歩きをしたらいいですよ。季節の花々を愛でながら、山の自然と風景を楽しむだけでOK!特に初夏の雨上がりの山は、緑が際立ってそれはきれいですよ」となんだかうれしそう。
頂上へ向かう最後の階段。この坂を登れば海が見える。あと一踏ん張り!写真提供:大庭初男さん
大庭さんの一番のお気に入りは頂上からの景色。「山頂に鎮座する坊主岩のてっぺんに立って見る景色は360度の大パノラマで最高です!十坊山は海に近い山ですから、玄界灘を一望できます。以前は唐津方面に木々が茂っていて景色が望めなかったんですが、今は切り開かれて『虹の松原』を見ることができます。自分が生まれ育った町の全景を山の上から眺めるのが好きです」と話す大庭さんの姿と写真を見ているだけで、登頂した気分になるから不思議です。
山頂の坊主岩のてっぺんに登って両手を広げ、大自然を体いっぱいに感じてみよう!写真提供:大庭初男さん
二丈方面 大庭さんが生まれ育ち、暮らしている福吉の町を望む:写真提供:大庭初男さん
玄界灘の水平線 天気が良ければ壱岐、対馬まで見える:写真提供:大庭初男さん
日本三大松原のひとつ、全長約4.5キロの「虹の松原」を望む:写真提供:大庭初男さん
十坊山は登山途中に展望所がなく、頂上に着いて初めて景色が望める山です。山頂は広場になっていて、お弁当を食べたり、お茶をして休憩したりするスペースがあります。大庭さんの楽しみは、山頂でお湯を沸かしてコーヒーとおやつを食べること。登頂記念の木札は「I.L.I.S(アイリス)山守会」のボランティアの手作りで、現在5座(可也山・立石山・十坊山・二丈岳・浮嶽)に設置されています。この木札を目当てに登山する人もたくさんいるそうです。
大庭さん愛用のコーヒーセット:写真提供:大庭初男さん
登頂記念の木札は全てボランティアによる手作り:写真提供:大庭初男さん
十坊山からの夕日 元旦には初日の出を拝みに来る登山客でにぎわう:写真提供:大庭初男さん
「山はなるべく午前中から登るのをおすすめします。携帯とレインコート(防寒に役立つ)、おやつは持参した方がいいですよ。低山だからと気を緩めると、道に迷う危険もあります。もし夕刻に登るなら、懐中電灯(ヘッドライト)は必須です」。地元消防団に所属する大庭さんの言葉には説得力があります。
「十坊山は幅広い年代で楽しめる山です。帰りに山の麓の日帰り温泉『まむしの湯』で汗を流しておいしいものを食べて帰るのもいいですよ」と山の魅力を語り出すと止まらない大庭さんでした。
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春には、十坊山の山頂から岸に近い場所で鰆(サワラ)漁をしている漁船を眺めることができます。
福吉のおすすめ
四季折々の山の景色。もっと登山に挑戦したい人は、十坊山、浮嶽、女岳、二丈岳の四座縦走もおすすめ。
【取材日】2022年3月2日