アスパラガス・デコポン農家 立石倫明さん・起和子さん

糸島ブランドの礎ここにあり。地に足をつけて農に向かう日々。

しっとりと湿った黒土に顔を出すアスパラガス。華やかな黄緑色に、春の訪れを感じます。隣のハウスでは、常緑の葉陰に濃い橙色のデコポンが鈴なりに実を付けています。佐賀との県境、二丈の西端に位置する鹿家(しかか)の山間で、アスパラガスとデコポンを生産する立石倫明さんと起和子さん。糸島ブランドとして全国で名を馳せる野菜や果実の生産に取り組む専業農家です。

1山間にたたずむハウス全景

 

デコポンの葉陰で。いつも二人三脚で作業

 

取材で訪れた2月上旬はちょうどデコポンの収穫時期。上にちょこんとこぶのついた愛らしい形で、濃い甘酸っぱさとジューシーな味わいが人気の柑橘です。品種名は「不知火(しらぬい)」ですが、「糖度13度以上、クエン酸1パーセント以下」という全国統一の基準をクリアしたものが「デコポン」と名乗れます。収穫適期となったデコポンは一気にちぎり、出荷します。

高品質のものを作るためハウスで雨をしのぎ水分管理をして送り出すデコポンは、「できたものではなく作ったもの」と倫明さん。「でも、やはり自然にはかなわんです」の言葉に、品質管理と人間の力が及ばない自然の驚異のはざまで揺れるプロ意識が垣間見えます。

デコポンのハウス周りには厳重に電気柵が設置されています。サルやイノシシ、アナグマといった野生動物が丸々としたデコポンを虎視眈々と狙っているからです。「サルが一番厄介。電気柵をしていても間をすり抜けてビニールハウスを破って入ってくることも。狩猟鳥獣ではないため、大きな音で脅かすくらいしか対策がない」と眉をひそめる二人。最近は人の姿に驚かなくなっていますが、倫明さんの青いトラックには反応し逃げ出すこともあるとか。すぐ身近にうごめく野生動物と知恵比べの日々です。

 

デコポンの詰まったコンテナは17キロはある。「何歳まで持てるかな」と苦笑いの起和子さん

 

電気柵で厳重に守られたデコポンの木

 

同じく2月初旬には、隣のハウスでアスパラガスの春芽が顔を出し始めます。ほんわかと温かいハウスの中に延びる畝は長さ60メートル。その畝と畝の間にタイヤのついた小さな台車を置いて座り、両サイドに腕を伸ばして収穫していきます。気温にもよりますが、採り損ねると一日で数センチも伸びてしまうので、規格に合った長さの見極めが重要です。3月上旬に春芽がピークを迎えると、夏期の収穫に向けて親になる株を育てます。竹ぼうきをひっくり返したように枝を広げた親株が育つと、7月から8月にかけて夏芽が収穫のピークを迎えます。その後だんだんと成長スピードは落ち、10月中旬に終わりを迎えます。アスパラガスは早春から秋まで、食卓を息長く彩ってくれる野菜です。

 

一度植えると植え替えが利かないため圃場管理には細心の注意を払う

 

本日の収穫。選別したものをJAの集荷場に持っていく

 

「ヒキガエルってかわいいのよ」。元は美容師で、エクステとネイルアートを楽しむ起和子さんの口から思わぬ言葉が。ふかふかした土から顔を出すのはアスパラガスばかりではありません。冬眠から目覚めたヒキガエルが顔を出すこともあります。手のひらサイズまで成長するヒキガエルは、なんと立石家のアイドルであり、アスパラガスをかじるダンゴムシを食べてくれる強力な助っ人でもあります。のそのそとした動きや、エサをペロッと舌で巻き上げながら食べる姿が愛らしく、前原地区に住む娘さんや関東に住む息子さんが連れ帰り、ペットとして飼育しているそう。収穫後の茎の残りに群がるダンゴムシ、それを狙うヒキガエル、通路に穴を開けてしまうモグラなど、立石家のハウスはとてもにぎやかです。

 

のそのそと移動しながらダンゴムシを捕食する

 

ヒキガエルの赤ちゃん

 

福ふくの里への出荷に加え、「お客さんの反応が直接見られてうれしい」と起和子さんが長年続けるのが、二丈ふれあい土曜夕市への出店です。1989年に糸島市交流プラザ二丈館隣りで始まった対面販売の夕市で、倫明さんのお母さんは当初からのメンバー。後を引き継いだ起和子さんも、子どもが小さい頃はベビーカーに乗せてあやしながら、お店を出し続けてきました。「贈り物にデコポンを送りたいけどまだ?」「アスパラそろそろ?」と心待ちにするファンの言葉に力をもらいながら、対面販売も息長く続けています。

 

お客さんの反応を見られる対面販売。お客さんは生産者の人柄を知ることができる。

 

今のところ後継ぎはいないため、「現状を維持し、日々細心の注意と愛情をもって作物を生産するのみ」とハウスに向かう倫明さんと起和子さん。デコポンとアスパラガスはJA糸島から、京都の青果市場へ出荷されます。全国的知名度となった糸島ブランドの野菜や果物がかの地でその名を轟かせています。

 

もぎたては濃い甘さにほとばしる酸味。少し置くと酸が落ち着き、甘酸っぱいデコポンに

 

アスパラにょきにょき。収穫作業がお昼までかかる日も

 

古くからの友人が描いてくれたイラスト。二人の人柄が上手に表現されている

 

福吉のいいところ

おいしい水。山を背負い、山に囲まれた鹿家地域だからこそ、山からの恩恵にあずかっています。作業場の前にこんこんと流れ出ているのはボーリングした地下水。まろやかでちょうどよい温度の水は、水をよく使うアスパラガスの生育に大いに影響を与えています。水路にクレソンが自生していたり、土手にツクシが顔を出していたりと宝物があちこち転がっています。

【取材日】2022年2月8日