ぎゃらり ふがく:大庭奈美子さん

自然に囲まれた「別世界」。 「できることを一つずつ」続けてきた器とカフェの店

駐車場に止めた車から一歩外に出ると、小鳥のさえずりと、花の香りを乗せた柔らかな風に包まれました。

見渡す限りの緑の中にまきストーブをたく煙が細く揺らめき、まるで別世界にきたような開放感。体からゆるゆると力が抜けていくのを感じます。

自然の中に佇む「ぎゃらり ふがく」

 

福ふくの里から車で5分ほどの山手に位置する「ぎゃらり ふがく」は、大庭奈美子さんが店主を務めるギャラリー兼カフェの店です。

2004年、夫・康弘さんの窯元「浮嶽窯」の器を展示販売するギャラリーとしてオープン。「器の使い心地を実際に味わってもらいたい」との思いから、2006年、「浮嶽窯」の器で飲み物や手作りケーキを楽しめるカフェを併設しました。

店内には康弘さんの器が並ぶ。写真左手が小上がりになったカフェスペース)

 

奈美子さんがカフェを始めたのは、2人の子どもがまだ2歳と5歳の時でした。「大変だったのでは」と尋ねると、「できることをできる範囲でやろうと思っていたので、大変って感覚はなかったです。自然に囲まれたのんびりした場所だから、気持ちに余裕を持ってやってこられたのかな」と、穏やかな笑顔が返ってきました。

静岡県出身の奈美子さんは、東京で働いていたころに陶芸と出会いました。趣味として始めた陶芸にすっかりのめり込み、仕事を辞めて愛知県の学校で本格的に陶芸を学んだと言います。その後、陶芸を通じて知り合った康弘さんとの結婚を機に、康弘さんの地元・福吉に移り住みました。

「人生何がどうなるか分かりませんよね。でも、海も山もある福吉は、どことなく生まれ故郷に似てるんです。自然や陶芸が身近にある今の暮らしが気に入ってます」。そう言って奈美子さんは目を細めます。

黒い器の置かれた文机は、康弘さんの父が昔使用していたもの

 

日常を忘れてのんびりくつろいでもらえるようにと設えられた店内は、まるで時間がゆっくり流れているかのよう。

使い込まれた年代物の家具が並び、開放的な窓の外には美しい田園風景が広がります。まきストーブの炎がチラチラと心地よく揺れる隣にはたくさんの本が置かれていて、この日もお客さんが本を選びながら奈美子さんとの会話を楽しんでいました。

静かな時間が流れる店内。音楽も心地よい

窓から明るい日差しが差し込む

 

豆を直焙煎し、井戸水を使用して丁寧に入れたコーヒーは、コク深く、柔らかな味です。康弘さんの器で飲むと、おいしさもひとしお。「使う人の心が静かに落ち着くように」と思いを込める器は、優しくも凛とした雰囲気で、手にしっとりとなじみます。

「浮嶽窯」の器でいただくコーヒーは格別

 

「クロモジ茶」という珍しいメニューも。奈美子さんの親戚が山で採ってきたクスノキ科の落葉低木「クロモジ」の枝を乾燥させ煮出す、体においしい手作り茶です。

柑橘類を思わせるようなすっきりした香りと、意外なほどに癖のない味がすっと体に染み渡りました。

クロモジ茶。ポットにたっぷりと入っているのもうれしい

 

日替わりケーキは、奈美子さんの手作りです。「体に優しいものを食べてほしい」と、なるべく地元の食材を使用し、タルトやチーズケーキ、ロールケーキ、スコーンなどを作っています。

この日のケーキは、レモンジャムのタルト。庭のレモンをコトコト煮込んで作ったというジャムのわずかな酸味と苦味が良いアクセントになり、しみじみとしたおいしさでした。

優しい味わいのタルト

 

店の駐車場から続く坂道の上には、康弘さんの父が趣味で手掛ける広いローズガーデンがあり、一声掛ければ、誰でも美しい花を楽しむことができます。

バラが見頃になる5月は、「チャリティーオープンガーデン」と称して入場料300円を募り、募金団体に寄付しているのだそう。

写真提供:大庭奈美子さん

 

ギャラリーもカフェも寄付活動も、「できることを一つずつやっていたら、だんだんと今の形になった」と言う奈美子さん。

「ぼちぼちやってきたお店だけど、皆さんのリラックスできる場所として、私が元気な限り続けていきたいです」。一つ一つ丁寧に言葉をつなぐようにほほ笑む姿が印象的でした。

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日常から少し離れて、リラックスした時間を過ごしにいらしてください。

 

「ぎゃらり ふがく」
  〒819-1641
   福岡県糸島市二丈吉井3254-24
   
   ・営業時間:10:00~17:00
   ・店休日:月・火(7〜3月)
        月(4〜6月)※バラの季節は月曜のみ休み
   ・TEL: 092-326-6333

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【取材日】2022/2/24