NPO法人産の森学舎 大松康さん

自然に寄り添う暮らしを通して“自分らしく生きる力”を育む

加茂ゆらりんこ橋の下を流れる加茂川の下流域にある佐波集落。民家が軒を寄せ合うのどかな集落の中に、産の森学舎というフリースクールがあります。玄界灘の青い海を背に小高い坂を登っていくと、先の古民家から出てきた男の子が私を見るなり元気にあいさつをしてくれました。「やっさーん、お客さん来たよ!」との呼び声に2階の窓から笑顔で返事をしたのは、校長の大松康さんです。

「今、ここでひらがなの授業をしてたんですよ」と大松さんが見せてくれた教室は、黒板に文机、振り子時計、火鉢…と昔ながらの物たちがしっくりとなじんで、まるで時間をさかのぼったかのよう。自宅の納屋を改装して作ったという学び舎には、読書スペースや広々したテラスもあります。午前の授業を終えた子どもたちは、テラスに座って日なたぼっこをしたり、竹林を駆け回ったり、ニワトリと戯れたりと、その様子はとても伸びやか。台所では、当番の子どもたちが声を掛け合いながら食事の準備をしていました。

旬の無農薬野菜や厳選された調味料を使い、毎日子どもたちが昼食を作ります【提供:大松康さん】

 

庭で飼育しているチャボや烏骨鶏は、セラピードッグならぬセラピーチキンとしての役割も担っているのだとか

 

産の森学舎には25人の小・中学生(取材時)が通っています。授業を担当するのは、大松さんを含む6人の講師。それぞれの得意分野の「好き」を活かした個性あふれる授業を行っています。大松さんが受け持つ「もじとかず」「英語」のほか、「くらしと料理」や「しぜん」など、五感を使った遊びや暮らしを通して子どもたちの好奇心と探求心を刺激します。「授業では、知識よりも『私はこれが好きなんだ』という熱を伝えたい」と大松さん。同時に、授業では物語を大切にしているといいます。

「赤ずきん」の人形劇を作る授業【提供:大松康さん】

 

牧場主になるというストーリーで数を学ぶ【提供:大松康さん】

 

 「ゆっくり時間をかけて、失敗したり悩んだりできる場所にしたいんです。できるようになることを急かすのではない形で接していると、子どもたちは思い思いのやり方とタイミングで自分にチャレンジを課していく。そういう瞬間を見るとすごくうれしいです」と、食卓を囲む子どもたちのあどけない姿をしみじみと眺めていました。

自由活動の時間、A4用紙を60枚以上も貼り合わせて鶴を作る子どもたち【提供:大松康さん】

 

もともと田舎暮らしに憧れがあったという大松さんは、2008年、当時2歳だった娘のアレルギーをきっかけに、子育てにより良い環境を求めて糸島に移住しました。美しい海に山、田園風景…それらすべてがそろう福吉は、奇跡のような場所だと話します。「こんなにも自然が豊かで素晴らしい環境ならば、学校の生活リズムや人間関係に馴染めない子どもたちが、子ども時代を満喫できる場所がつくれるのではないか」。その思いが原動力となり、意気投合した仲間と一緒に思いを一つ一つ形にして産の森学舎が生まれました。産の森という名前には、学舎の前の坂を登った所に祭られている「産のうさま」という神様への親しみと、この山に寄り添って学校をつくっていきたいとの思いが込められています。「とにかくこの村が大好き」と地元愛の熱い大松さん。糸島での暮らしを始めた頃から、ふるさとという言葉が、じんわりと心に染みるのだそうです。

 

 大松さんにとって、産の森学舎は自身の暮らしそのもの。校長として、父として、成長する子どもたちへの願いは「一人で立てるという自信と、誰かと協力し合えるという自信。その二つの自信をもって、自分らしく生きていってほしい」ということ。そして、その理念を強く持ち続けることを自らの役割とし、大松さんは子どもたちの学びと成長の場を守り続けています。

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フリースクールに通う子どもたちも、公立学校に通う子どもたちと同様に、学んだり、悩んだり、新しいことにチャレンジしながら、かけがえのない子ども時代を過ごしています。そんな子どもたちの日々の暮らしを支えてくださるサポーター(寄付寄贈)を募集しております。詳しくはHPをご覧ください。

HP
http://sannomori.org/

NPO法人 産の森学舎
代表:大松康

〒819-1631
福岡県糸島市二丈福井2254
(JR大入駅より徒歩10分)

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【取材日】2022年3月16日