季節料理「浮岳茶寮」小林美智代さん

福吉の食、空、音…は最高のおもてなし。「また来たい」という糸島に

春には梅や桜が彩り、夏にはホタルが舞う川沿いから、細い路地に入ったところにある小さな集落。しっくい壁の古民家にかかるサラリとしたのれんをくぐると、笑顔の小林さんが出迎えてくれました。

「ちょうどひと組、お客さまをお見送りしたところなんですよ」

 

 

 地元福吉の食材を中心にした季節料理を、現在は1日1組限定で提供している季節料理「浮岳茶寮」。かれこれ16年、懐石料理、茶事を中心に、九州や遠くは関西、関東からのお客さんをもてなしています。2019年には、隣接する旧馬小屋を改装した建物に、懐石料理付きの旅館「オーベルジュ 山ぼうし」(1日1組限定・要予約)もオープンしました。

 

写真提供「浮岳茶寮」

 

あいさつもそこそこに、敷地内をしゃきしゃきと案内してくれる小林さん。東屋を新築したばかりという宿の裏手の丘に上ると、心地よく風に揺れる竹林と、遠くに糸島市と佐賀県との境でもある浮嶽がくっきりと見渡せました。

 「ここに移り住んで、びっくりすることがたくさんありました。川のせせらぎも素敵ですし、夜空はすごいですね。星が近くて『きれい』という言葉を飛び越えましたよ。人生初めての天の川をここで見たときは感動しました」。都心から来たお客さんから、「鳥の声はBGMですか」と聞かれることもあったそうです。

 

 

もともとは、東京で大手企業のキャリアウーマンとして飛び回っていた小林さん。よほど自然が恋しくなって転職したのかと思いきや、「いえいえ、全然こういう予定じゃなかったんです」とのこと。

 福吉に移住するきっかけは、今から20年前、北九州市で茶懐石の料亭をしていた母親が病気で倒れて店をたたんだことでした。当時は40代前半。

 「早期退職して福岡に戻ったのですが、大正時代のものもあるような料亭の家財道具、茶道具を保管する場所を探すことになって。大きな家を手頃な家賃で借りようと思ったら、この場所にいい物件が見つかったんです」。

 引き継いだ器や道具を見ていたら、若いころ母親を手伝っていた懐石料理の献立、床の間のしつらえが次々とよみがえってきて、潔く転身したそうです。

 

 

春ならフキノトウやタケノコ、海からは地物のタコや天然真鯛…。都会暮らしが長かったからこそ、この環境がどれほど都心の人たちに喜ばれるか、よく分かるという小林さん。

 「お客さまをお迎えする前には、去年の献立を見ながら、福ふくの里で旬の食材を買い出しします。いつもお客さまの反応を見て、喜んでいただいた献立を記録しているんですよ。四季の移ろいは駆け足だから、いつも追い越し、追い越されしながらあっという間に1年が終わる感じもしますね」

 

 

たまたま移り住んだ福吉ですが、今ではこの環境が小林さんのエネルギー源だとか。特に朝起きて自身が育てた庭に出たとき、なんとも言えない幸福感が体の中から湧いてくるそうです。

 「糸島は、全国的に観光地としてとても評判になっていますが、私は、この福吉の豊かさを心地よい空間、お料理という『おもてなし』にすることで、『また糸島に来たい』と感じてもらえる至福の体験を提供したい。80歳になるまで、私自身も楽しめる形で、この仕事を続けられたら幸せです」

 

 

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茶事にもよくご利用いただいています。庭木もカンアヤメ、沙羅の木、紅梅など茶花を多く植えているので、喜んでいただいています。ホームページでは、名物の「タンシチュー」「イワシの糠炊き」「肉みそ」などを販売しています。

 

季節料理「浮岳茶寮」、旅館「オーベルジュ 山ぼうし」

(いずれも前日までに電話での予約が必要)

 

〒819-1641 福岡県糸島市二丈吉井1965

092-326-6866

http://ukidake.jp/

福吉のおすすめ

二丈の棚田はお勧めです。遠くに青い海があって、秋には棚田が赤米の色や黄金色に染まる。彼岸花って、どんなに天候不順でもお彼岸の頃に咲くから、それを見ていつも「自然ってすごいなぁ」と感心する、私のお気に入りの風景です。

【取材日】2022年2月21日