谷口秀斗さん(漁師)

漁師 谷口秀斗さん


福吉のおすすめ

喜八荘の海鮮丼が最高です。漁師が言うから間違いない(笑)

取材日:2021年7月5日

新米漁師 海と生きる ~天然真鯛漁獲量日本一を支える現場から~

夏至を過ぎた7月初旬、夕闇迫る福吉漁港へ漁を終えた伸栄丸が帰ってきます。船首に立ち、船を係留するためのロープの準備をしているのは、谷口秀斗さん(21)。「ダッダッダッ」というエンジン音と共に港に滑り込んだ船からロープを投げると、港で待っていた祖父の佐々木金男さんが岸壁に船をもやいます。伯父の佐々木伸一さんの船「伸栄丸」は、今朝は4時半に出港し、タイやイサキを求めて吾智網漁に出ていました。

漁獲の重みで船が少し沈んでいる

 

港で待機していた家族が総出で船を横付けする

 

港で待っていた伯母のこずえさんや従弟妹たちと、休む間もなく水揚げ作業が始まります。秀斗さんが、漁船の中央にある生け簀(いけす)から網で魚をすくい上げると、50㎝は超えるタイやヒラス、イサキなどが跳ね、網の柄がたわみます。こずえさんが受け取り、軽トラに積んだコンテナへ入れていきます。

漁獲の重みを感じる水揚げの時

 

「この大きさでもまだまだ」と伸一さん

 

4槽の生け簀から水揚げした魚を漁港にある倉庫へ運びます。ここで一旦解散し、数時間の仮眠を取ります。23時頃また港へ戻り、福岡魚市場や、地元の直売所「福ふくの里」「伊都菜彩」へ出荷するための準備に取り掛かります。作業が日をまたぐこともありますが、漁業組合保有の冷蔵車が福岡市へ向けて出発したら、本日の漁は一区切りです。

小さな魚はその場で発砲スチロールの箱に詰めていく

 

秀斗さんが伸栄丸で仕事を始めて4年が経ちます。福岡市西区元岡で育ち、中学、高校時代は、みんなと同じことを強要する学校になじめない日々を送っていました。そんな18歳の時、金男さんから「なんもしよらんならカキ小屋のアルバイトに来んね」と声がかかり、海の仕事に出会いました。

金男さんは港でサポート

 

伸栄丸での仕事は、季節や海の状態に合わせて変わります。5月に吾智網漁が解禁すると、潮の具合を見ながら魚群を追い、日の出から日没まで沖に出ます。10月半ばになるとカキシーズンの到来。カキ小屋とカキの出荷が始まります。大事に育ててきたカキが商品として並ぶまでにもさまざまな仕事があります。海に浮かぶ養殖用の筏(いかだ)に乗り、カキを引き揚げます。塊となっているカキを脱解機にかけ、サイズごとにより分け、フジツボなどを取り除きます。どの作業も重労働ですが、お昼休憩の時の港での日向ぼっこが至福の時です。

これらと並行して、沖に出ない日は定置網漁もします。漁船で10分程の沿岸に設置している網には、アジやブリ、ヒラスなど季節ごとに異なる魚が入ります。さらに、昨年末からは海士(あま)漁にも挑戦している秀斗さん。ウエットスーツを着て海に潜り、サザエやアワビ、ナマコを採ります。海士漁の漁獲物は「お小遣いになります」とにっこり笑いますが、どの仕事も、海がしけているか凪いでいるかを見定め、その日その日に内容が決まる、自然本位の仕事です。

早朝の海から陸を望む(谷口さん提供)

 

福吉は20代、30代の漁師が多く活気があり、漁師の息子ではない秀斗さんも温かく迎え入れてくれています。「強面の方が多いですけど、皆優しくていい人ばかりです」と笑う秀斗さん。「僕の人生で自慢できることは、周りの人に恵まれていることですね」とゆっくりかみしめるように語ります。

早朝から漁に出て引き揚げた魚がその日の漁果となり、働くことの喜びをストレートに感じられるこの仕事の面白さが少しずつ分かってきたところです。

爽やかな海風を感じさせる笑顔…