運転手も利用者も顔なじみ 運行開始10年を迎えた「ふくよし号」
駅やバス停が遠く、公共交通が不便な地域の利便性を向上するため、糸島市内4校区で運行される「校区自主運行バス」。その一つである、ふくよし号は平成24年、最初の自主運行バスとして運行が開始されて以来、福吉校区の住民の足として活躍しています。
いとゴンがトレードマークのふくよし号。火曜日は「鹿家・吉井下」、水曜日は「吉井上・吉井下」、木曜日は「吉井下・福井・大入・佐波」を回る。
ふくよし号は10人乗りの小型バスで、火曜日、水曜日、木曜日のそれぞれ午前と午後、週に6回運行しています。拠点である福吉コミュニティーセンターを出発し、曜日ごとに異なる地域を回った後、深江のマルキョウや筑前深江駅などを経由。ナフコを終点として、折り返して同じルートを運行します。
「どのルートもマルキョウやナフコで買い物をした後、帰りのバスに乗れるスケジュールになっています。帰りには両手に買い物袋を抱える利用者さんも多いんですよ」と福吉コミュニティセンターの姫野センター長が教えてくれました。
時刻表とルート図(火曜日)
ふくよし号の利用者の目的は、買い物だけでなく病院や駅、役所などさまざまですが、地域住民の足をなっていることは間違いありません。無料で、会員登録の必要もなく、電話予約で気軽に乗れるという利便性の高さから、定員8名のバスが満車になることも多く、令和3年度は年間で延べ2,827人が利用したそうです。
1日2回乗ることもある利用者に聞くと、「本当に助かっています。車がない身にとっては、このバスだけが遠出するための手段です」とふくよし号がなくてはならない存在であることを教えてくれました。
たくさんの買い物袋を抱えて帰りのバスに乗る利用者たち
「バスに乗って元気になる人を何人も見てきました」と言う姫野センター長。訳を尋ねると、「外出しないで家にこもっていると、足腰も心も元気がなくなってしまう。バスに乗って出かけると運動になるし、人と話せて気分転換になるんです」とのこと。
交通手段としてだけでなく、利用者やスタッフと顔見知りになり、話をするきっかけの場としても機能しているようです。
バスに乗る前の検温。なじみのスタッフとあいさつを交わします。
ふくよし号の車両購入費、燃料費などは糸島市が負担していますが、運行はボランティアによって支えられています。一度の運行には運転手と助手の2名が必要で、現在は15名の福吉校区の住民が交代で担っているそうです。
ふくよし号が運行を開始した頃から、運転手として10年以上ボランティアを続けている林田勇一さんは、元々昭和バスの運転手で運転はお手の物。退職して「余生は地域のために頑張りたい」と考えていた時に、自主運行バスの募集を見つけ、ボランティアを始めました。「運転するたびに、利用者さんがありがとうと言ってくれることが何よりうれしい」と話す林田さん。「そのうち自分が利用する側になるかもしれない。支え合いですね」
ボランティアスタッフの林田勇一さん(右)と佐藤倫子さん(左)
住民同士の支えあいによって成り立つふくよし号。「続けていくには課題もある」と姫野センター長は言います。現在のボランティアスタッフの平均年齢は68.5歳。「新規の運転手の確保が難しい。いつでも募集しています」とのこと。人を乗せて運転するのは怖いという人もいるそうですが、年に1回の運転講習や毎日の車両点検、アルコールチェックなど、安全に運行するための仕組みも整っています。
朝の点検と清掃をするボランティアスタッフ
ふくよし号は、主に福吉地域住民のために運行されるバスで、観光目的のバスではありませんが、予約に空きがあれば他の地域の人でも乗ることができるそうです。
遠くに広がる玄界灘、山あいに広がる昔ながらの町並み、福ふくの里の菜の花など魅力あふれる福吉地域。バスに乗って、車窓の風景をゆっくり眺めるぜいたくな時間を持つのも良いですね。
胡麻田地区から見る玄界灘の眺め
(取材のご協力)福吉コミュニティーセンター センター長:姫野吉秀さん、福吉校区自主運行バス協議会 会長:阿部成章さん、ボランティア:林田勇一さん・佐藤倫子さん
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福吉のおすすめ
福ふくの里の魚
たくさんの魚が並ぶ中でも林田さんのおすすめは鰆(さわら)。刺身、塩焼き、干物、天ぷら、何にしてもおいしいです。
【取材日】2023年1月22日,25日