糸島にある手作りの小さな本屋から、旅するような本を届けたい
広い空と畑や山の緑が印象的で、心地よい風が吹く場所にある本屋アルゼンチン。JR筑肥線大入駅から山側に歩いて1分。車1台が通れるほどの細い道の先にあります。
敷地からの景色は、住宅などの建物はほとんど見えません。時折、「カンカンカンカン」と踏切の遮断機の音が響いてきます。
「真緑できれいなところですよね」と話すのは本屋アルゼンチンの店主で、合同会社こっからの代表である大谷直紀さん。
大阪出身で、東京の大手企業に勤めていましたが、2016年に起業するため福岡へ。「ビル街の中よりも自然豊かなところで起業したかったんです」との言葉通りに、緑に囲まれた大入に会社を設立しました。同じ敷地内に本屋アルゼンチンをオープンしたのはその5年後です。
建設途中の本屋(写真提供)
「本屋もウッドデッキもピザ釜も全部手作り。おいちゃんって呼んでいる、近所の大工さんに教えてもらいながら会社のメンバー6人で作りました。今までDIYをしたことがなかったので、生きるすべも教えてもらった感じですね」と話す大谷さん。
サスティナブルを実践するため、解体した家からもらった古材を利用。古材の釘抜きや、のみで継ぎ手を作るところがとても大変だったそう。「作業中に足まで骨折しちゃって。DIYの領域を超えてますよね」と笑います。
以前、起業した後に通った社会人大学院で哲学や人類学を学んでいた時に、渡された本が難しくて、理解できないことに衝撃を受けたそうで、その経験が本屋を作るきっかけになりました。
「今まで分かりやすい本ばかり手にしていたな、これからは頭で考える本が大事なんだと感じました。当時は前原から唐津の間に独立系の本屋がなかったんです。だったら作ったらいいなと思って。本業では組織の困りごとや、次世代リーダー育成の相談に乗る仕事をしていて、クライアントに『自分で学ぶ力を育むには本が大事』と話しています。それを体現できる場にもなったらいいなと思いますね」と大谷さんは関西弁のイントネーションで話します。
2021年3月に本屋アルゼンチンを始めた頃は、コロナがまん延し旅行に行きにくい時期でした。
「旅で新しい物に触れて、自分の物の見方が180度変わることってあると思うのですが、それができない時代。でも本に書いてあることでも、物の見方って変わる場合がある。そう思うと本を読むって旅に近いよなと。どうせ旅に連れて行くなら地球の裏っ側までという思いで本屋アルゼンチンにしました。偶然にも僕の息子が『アル』、他のメンバーの子どもが『ゼン』って言うので、これもちょうどいいよなって(笑)」。
たくさんの思いが詰まった小さな本屋には、大谷さんが選んだ本たちが並んでいます。自分の常識や考えに、「本当にそうかな?」と立ち止まらせてくれる、ちょっと違う世界を見せてくれるような本を選んでいるそうです。
「ここには普段手に取らないような本があるはずだから、そういう本を手に取って自分の考えを柔らかくして、視野を広げていく機会になったらうれしいです」。
そう話す大谷さんの糸島生活も7年目。仕事だけでなく、家族との生活でも糸島の良さを実感しています。
「家から海がすぐそばで、子どもが一日3回海に行くこともあって。親はめっちゃ大変(笑)。でも、自然の中で子育てできているなと感じます。糸島に引っ越してきてほんまによかった」。
インタビュー中に一番の関西弁が飛び出た瞬間でした。
福吉のおすすめ
大入駅すぐ近くの「長浜ラーメン」。定食は何回食べたか分からないくらい。ふらっと寄って、ちょっと会話できる大事な場所です。おいちゃんとの出会いもここでした。
取材日:2023年1月4日