手打蕎麦すみくら 前野 浩二さん

田舎暮らしへの思いを具現化した店主のセンスが光る手打ちそばの店

「田舎暮らしがしたかったんですよ。そのために必要なことを真剣に考えて、一つ一つクリアしていったら自然と今の店になった」と話すのは、「手打蕎麦すみくら」店主の前野浩二さん。田舎暮らしをかなえるために、そば屋という商売を選んだ前野さんは、2010年9月に会社を辞め、そば打ちのプロ養成講座で1ヶ月修行します。そして2011年3月に東京から妻の出身地である福岡に移住しました。その半年後には現在の土地を見つけ、2012年8月に店をオープンします。覚悟を決めて福吉に店を構えるまで2年弱という早さでした。

青い壁が目印 奥にある駐車場は乗用車12台分のスペースがあり余裕の広さ。写真提供:「手打蕎麦すみくら」

 

「土地を探す時に、店からの眺望にはこだわっていて、予算も含め福吉がいろいろと条件に合ったんですよ。最初は草ぼうぼうの空き地で、土地勘もなかったですし、本当にここで大丈夫なのかと心配もしましたが、住んでみると人が温かく暮らしやすい地域で、今では良かったと思っています」。開業10年を迎えるすみくらの当時を振り返りながら前野さんは話します。店は前野さんの妻と義母の3人で切り盛りをしています。

 

店の外にお客さんが並んで待つほどの人気店 入口にはベンチと季節の花々が植えられていて待つ人を飽きさせない のれんはお義母さんの手織り

 

清潔感のある店内は、靴を脱いで上がるスタイルで、はだしで歩いても気持ちの良い木の床です。大きな窓からは緑の山々と田園風景が広がり、4つのテーブルとカウンター席のどこに座っても景色を楽しむことができます。「テーブルは工務店の社長の手作りなんです。伊万里まで一緒に行って木材を決めたんですよ」と前野さんは分厚い木のテーブルを大事そうに見つめます。

窓から光が差して明るい和風モダンの店内。写真提供:「手打蕎麦すみくら」

窓からの景色 手入れが行き届いた庭にチューリップの芽がいくつも顔を出していた 田んぼにはツクシを採る人の姿も

 

テーブルに置かれたメニュー表の裏には、食材についての説明書きがあり、読むとこれから運ばれてくる料理への期待感が高まります。せっかくなので、希少品種である長野県松本市(旧奈川村)の在来種そばを100%使用した「奈川在来の十割そばセット」を注文しました。静岡産の若草色のわさびは爽やかで上品な風味がそばを引き立て、そばと一緒に食べる鴨焼きのおいしさは言うまでもありません。小鉢のそば豆腐は本葛を使用したそばの実入りで食感が楽しめます。喉にとろりと優しいそば湯は飲み干してしまうほどでした。

「奈川在来の十割そばセット」希少なそば粉を使用したみずみずしいそばと料理が並ぶ

 

「七山たまごの玉子とじそば」絶妙なふわとろ玉子が絡んだそばを、つゆと一緒にいただく幸せ

 

食べるだけにとどまらず楽しませてくれるのが、料理の名脇役となる器です。私が心を奪われたのは、そばざる。編み目が普通のざると違っていて感動しました。前野さんに尋ねると「戸隠(とがくし)編みです。長野市戸隠の伝統工芸品で、真竹より強い根曲がり竹を使って職人の手で編まれています。今このざるを作っているのは戸隠で2人だけなんですよ」と教えてくれました。竹細工の工房に直接問い合わせて取り寄せたという希少なざるは、中心から3段階に編み目が分かれていて、一言でざるといっても表情が豊かです。そばを食べ進むにつれ徐々に網み目があらわになっていく、心くすぐる粋な計らい。

戸隠のそばざるは、中央から網代編み、七回し、ざる目編みと竹の硬さを変え3段階に編まれるため強度としなやかさを兼ね備えた丈夫な作りをしている

 

「一つ一つにこだわりを感じます」と伝えると、「いろいろやり過ぎちゃうんですよね(笑)でも、自分が優雅な気分になれるので。少々値が張っても自分が好きなものを使いたいし、ご縁のある人や物を大切にしたいから」と前野さんが店で使っている器の話をします。艶のある藍色が特徴の食器は有田焼の陶芸家 辻 修さんに、そば湯を入れる片口は近所の「浮嶽窯」に直接お願いして作ってもらったものだそう。天然木のマドラーや吉野杉の割り箸にも前野さんのこだわりとセンスが光ります。

前野さんのお義母さんが手織りで作ったコースターと敷物が有田焼の湯のみに合う

 

「前野さんが好きな物とご家族の仕事に対する姿勢が、すみくらの穏やかで気品ある雰囲気を作り出しているんですね」と伝えると、前野さんは「いえいえ」と謙遜しながら「誰に何と言われようと自分の納得のいくやり方で、中身が伴った適正なものをお客様に提供して、真面目に誠実な商売をするだけです。これからも高望みはせず地に足をつけて、いい店を長く続けていきたいですね。世の中の素晴らしいものに触れる時間も大切にして、自分に栄養を与えながら無理をせず働けるうちは働きますよ(笑)」と話してくれました。店を後にする時も「ありがとうございました」と丁寧にお辞儀をする前野さんの姿が印象的でした。

前野さんが手織りしたのれん 縦横に規則正しく織られた白い清らかなのれんの風合いが、すみくららしさを物語っているよう

一言PR

そばを食べに来てください

手打蕎麦すみくら

糸島市二丈吉井3729-1
 092-326-5518(予約不可)
11:00〜14:30 (火・水 定休日)

※営業時間中は電話を取れないことが多いです。ご了承ください。

福吉のおすすめ

「ぎゃらり ふがく」よく訪れる場所です。
「浮嶽窯」の器を店で愛用させていただいております。

【取材日】2022年3月4日

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。